飛鳥井です。
クウジットでは、ロケーションサービスやARサービスのコンテンツの制作およびディレクションを担当しています。個人活動では、対人関係カウンセリングや池上本門寺の「500個の風鈴の音を聴くイベント」などにもかかわっており、「自分を知ること」「人と人の心をつなぐ」をテーマにしています。
さて、クウジットでは、人の流れなどの行動の測定技術と解析技術を提供しており、今回は、人の行動に関して、人と人の関係性と、そのときの感情について、徒然なるままに書いてみたいと思います。
(ちょうど先週、G空間EXPO2014が開催され、クウジットでは日本科学未来館における来場者の混雑度ヒートマップなども提供しておりました。その様子はこちらをご覧ください。)
(キーワード:座席行動、パーソナルスペース、対人距離、共同注意、並列歩行、行動解析)
会議室
【座席行動】
皆さんは会議などでどの椅子に座ることが多いですか?
とにかく真中の席?、偉い人の正面の席?、魅力的な異性の隣の席?、ひたすら端の席?、一番高そうな椅子の席?
座る席によって、どんな風に気持ちが変わり、どんな行動をとりやすいのでしょうか?
心理学ではこれらを座席行動と呼びますが、性格や親密さなどによって変わってきます。
二人の関係に注目すれば、対面か横並びか、距離が近いか遠いかが重要で、対面はお互いの視線が合うため横並びよりも強い関係性、距離が近い方が遠いよりも強い関係性になります。
性格でいえば、外向的な人は対面を好み、内向的な人は距離を一定以上に保ち、また親密な人ほど横並びを好みます。
心理カウンセリングでは、うつ病の人を相手にすることが多いので、強い関係性で不安感を与えないように、対面から角度をつけて座ります。
通勤電車では、見ず知らずの人と一緒に座ることが多いので、弱い関係性の横並びの長い席が多くなっています。
しかし、多数の席を確保するために席は分離されていないので、隣の人が大きかったり居眠りして接触したりするとストレスを感じることが多いです。
昔なら、袖振り合うも多生の縁というところですが、親しくない人と接触し続けるというのは通常はありえないことです。
【パーソナルスペースと対人距離】
距離が近いか遠いかと親しさとの関係性には、パーソナルスペースという動物でいうところの「なわばり」が関係しています。
パーソナルスペースは自分の周囲の他人に侵害されたくない空間です。
自分のパーソナルスペースを知るためには、最初に自分の正面の遠くに人に立ってもらい、その人に徐々に近づいてもらって、自分が圧迫感を感じる距離で止まってもらうワークがあります。
もちろん相手が魅力的な異性だったり、怖そうな男性だったり、人によっても変わりますが、基本的にはこの止まった距離が自分のパーソナルスペースです。
パーソナルスペースは自分を中心とした等方な球にはならず、通常は前方に長い異方性を持ちます。
この理由は人間の知覚が視覚偏重のためで、特に視覚に頼りやすい男性は女性と比較して前方に長くなります。
また、視覚に障害がある視覚障害者は、一般的にパーソナルスペースが狭くなるとともに、健常者と比較して前方への異方性が小さくなります。
そして、親しい相手は安全であったり接触したりするので距離を近く、親しくない相手は危害を加えたり何をするかわからないので距離を遠く保持しようとします。
パーソナルスペースは前方に長く横や後ろに短いので、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車でも前方が開けていれば、何とか我慢することができます。
もちろん、パーソナルスペースの異方性は、人間の身体の異方性によるものなので、ウェアラブルデバイスなどによって後ろが見えたり、あるいは前方が見えなくなったりすれば、パーソナルスペースの形状も変わってくると考えられます。
対人距離という概念を使うこともあります。
対人距離では、人と人の距離を密接距離・個体距離・社会距離・公衆距離に分類します。
密接距離は数十センチメートル以内の親密な相手との距離で、愛撫や格闘などモダリティとしては触覚によるコミュニケーションが多用されます。
個体距離は1メートル以内の親しい相手との個人的な関係の距離、社会距離は数メートル以内の相手との公的な関係の距離です。
公衆距離は数メートル以上の対面ではまともなコミュニケーションの成立しない距離です。
ぎゅうぎゅう詰めの満員電車では、本来は社会距離以上の距離で接するはずの知らない相手と、親密な相手との密接距離で関係を持っているところがストレスを感じる理由です。
【共同注意:横並びと親しさ】
対面と比較して横並びは弱い関係性なのに、どうして親しさにつながるのでしょうか?
人間は生後しばらくの母親と見つめ合うという二項関係から、数カ月で母親の視線を追えるようになり、「一緒に何かを見る」という三項関係の共同注意の能力を獲得します。
そして、この視線の対象に同じ感情を抱くことが「共感」で、共感が親しさを醸成していきます。
この相手の視線を確認でき、かつ視線の対象も見やすい位置関係が横並びということになります。
上の横並びの恋人たちの画像では、二人が同じ雑誌を見ながら同じ楽しい感情を共有しています。
逆に同じ対象に対して逆の感情を抱く場合は親しくなれません。
例えば、ある食べ物を自分は好きなのに相手が嫌いだったりすると、二人で一緒に食べても親しくなれません。
【並列歩行】
横並びの歩行を並列方向と言います。
横並びの座席が二人の親密さを醸成するのと同様に、横並びの歩行も二人の親密さを醸成します。
また、前を歩いている人の歩行の視覚刺激や、近くを歩いている人の足音の聴覚刺激のフィードバックによって、歩いている人同士の歩行リズムが相互引き込み現象を起こします。
親密な関係では、手を握る・腕を組む・肩や腰を抱くような身体接触があり、これらの制約条件によっても歩行リズムは相互に影響を与えます。
肩や腰を抱くような強い身体接触の場合、単独歩行とは異なる歩行技術が必要となります。
横並びという姿勢の共有だけでなく、このような身体リズムの共有も親密さを醸成します。
例えば、偶然に異性と横並びで歩いてしまったとき、もし二人が何の関係もないとすれば、特に女性の場合は、歩行の速度を変えて並んで歩かないようにするはずです。
これからの行動解析では、単に人の流れを解析するだけでなく、人の動きに伴う感情も一緒に解析したり、単独の人の動きだけでなく複数の人の動きの関係性を解析し、プロダクトデザインやコミュニケーションデザインに適用することなどが重要になってくるでしょう。
私もこの領域に興味を持っており、それに取り組んでいきたいと思っています。(by asky)
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