2015年度 慶應SDMxクウジット共同研究ふりかえり記録(その1)

慶應SDMxクウジット共同研究活動のふりかえり記録(2015年度)です。


■ 2015年3月 「ハピネスカウンター for ワークショップ」を発表展示

2014年度、クウジットは、東大/ソニーCSL 暦本先生、東大i.school の堀井先生らとの「ハピネスカウンター for ワークショップ」共同研究を行っておりました。2015年3月、その成果発表を兼ねて、九州大学で開催されたイノベーション教育学会にポスター展示を行いました。

※ 「ハピネスカウンター」研究は、東大/ソニーCSLの暦本教授、辻田眸さん(シンクフェーズ)らによる、日常生活の中で積極的に笑顔をつくることを促進するインタラクションデザインのコンセプトです。

慶応SDM前野先生も参加されており、我々の研究展示を見に来てくれました。

クウジットでは、この「ハピネスカウンター」研究の知見を街づくり領域での社会実装の流れで、生かせないだろうかと考えておりました。すなわち「幸せだから笑うのではない。笑うから幸せなのだ。」を実践すべく感情のメタ認知を誘導するような、感情可視化のデザインやギミックを日常生活に潜ませられないかと。一方で、街でのハピネスを志向するとき、ポジティブな感情だけではなく、より長期的な幸せについて本質的に向き合わないと立ち行かないなとも考えておりました。

その後ほどなく、前野先生の幸福学研究の知見を「ハピネスカウンター」コンセプトの街づくり領域での社会実装にぜひとも取り入れたいと考えるようになっていきました。というのも、前野先生の受動意識仮説から幸福学研究の流れ、そして幸福の4因子モデル化の手法が、工学バックグラウンドの我々としては、「ハピネス」のよりどころとするのに馴染みがよいと考えるに至ったからです。


■ 2015年6月 慶応SDMxクウジット、共同研究スタート!

前野先生のお時間をいただき、「ハピネスカウンター for 街づくり」として共同研究の申し入れをお願いしました。幸せのIoTタスキとハピネスボタンを駆使した、岩波さんらによる華麗なるIoTアシストによるプレゼン効果もあり、ありがたいことに、前野先生から、やりましょう!と即断即決のお言葉をいただき、その日から共同研究がスタートすることとなりました。


■ 2015年7月 クウジット、慶応SDM ヒューマンラボにて初登場!

「ハピネスカウンター for 街づくり」研究活動の取り組みについて紹介。この時期、「幸せのIoTハピネスタスキ」は、私のユニフォーム。この日は、ジャケットの下にこっそりしのばせ、まだまだ控えめでしたね。この後、クウジットの岩波さん、飛鳥井さん、末吉の3名は、慶応SDM ヒューマンラボの研究員としても活動することになっていきます。


■ 2015年7月 保井先生と共同研究スタート!

クウジットの取り組みを聞いて、地域経済/地域イノベーションの保井俊之先生が自ら共同研究者として手を挙げてくださり、「ハピネスカウンターx幸福学x地域イノベーション」としてご一緒することとなりました。


保井先生に最初にお会いしたのは、PMI日本フォーラム2015の会場にて

さまざまなテーマ可能性についての議論を経て、保井先生が主催している「人の幸せにする通貨を創る」研究に合流し、ビジネスゲーム仕立てのワークショップをデザインしていく活動に発展していきました。

保井先生、およびSDM有志による研究会の様子


■ 2015年11月 前野先生と保井先生、クウジットに来社いただく!

前野先生、保井先生との共同研究打ち合わせ、初クウジットで開催。メンバー一同はりきって活動紹介中。


笑顔計測カメラ、IoTボタンをワークショップでのICT支援、評価ツールとして導入していこうと決まりました。そして、最初のターゲットが12月の「ハッピーWS」に決定!


■ 2015年12月 ハッピーWSにて笑顔計測カメラ導入!


前野先生、まどか先生が主催する「ハッピーWS」にて、笑顔計測カメラを初導入し、評価検討開始。


■ 2016年1月 「人を幸せにするおカネ」を創るワークショップが誕生!

2016/1/17@慶応SDM、初めてのエミー&ゼニーの2つのセッションからなる「おカネWS」を開催しました。保井先生の書かれた研究主旨について抜粋します。

本研究では、資本の論理に従い、もうけ極大の行動原理で利用、流通する通貨システムを「ゼニー」、長期的なつながりと共感、ありがとうの気持ちを極大化し、笑顔を伝搬する通貨システムを「エミー」と名付けて、この2つの行動原理が共存する世界(たとえば、グローバル資本主義経済と地域コミュニティ経済など)において、その中で、人がどう幸せに生きていくかを、さまざまな領域の人たちと一緒になって議論しています。これら二種類のおカネが、ワークショップ参加者の幸福度にどのように寄与するのか計測し、研究の前進及び社会への成果還元を目指しています。

※「エミー」と「ゼニー」のネーミングについては、ゼニーは銭勘定などの「ぜに」から、エミーは感謝のほほえみである「笑み」からの命名で、2012年12月に電通国際情報サービス、クウジット株式会社並びに東京都市大学が共同で開催したミラーサイネージと笑顔認識技術を用いたチャリティイベント「エミタメforチャリティ」からの流れを受けています。「エミタメ」プロジェクトでは、コンセプトデザインの福田桂さん(デザイン茶室マフマフ)、本條陽子さん(ソニーCSL)らが命名した経緯があります。

手ごたえを感じ、祝杯をあげる一同!

1/17 初めてのエミー&ゼニーWSの様子は、前野先生のブログにて紹介されてますのでぜひご一読を!(”愕然のワークショップ報告。人は制度により180度変容する。「金」か「ありがとう」か。“)果たして、エミーとゼニーの対比による、おカネに関するワークショップは、回を重ねるごとに、さまざまな気づきやもやもやを参加者に投げかける、手ごたえのあるワークショップに成長してきています。


■ 2016年2月 慶應SDM x 向源 meet up!

かねてより、寺社フェス「向源」、副代表の青江住職と出会い、その活動とコラボしたいと考えていたこともあり、5月に開催予定の「向源2015」に、エミー&ゼニーWSをお寺で開催する共同企画「お寺でおカネ」イベントとして開催できないか調整をはじめていきました。そして、2月9日、浅草の日本料理「おと」(畑谷さんオーナーのお店)にて、緑泉寺の青江住職と、保井先生をお引き合わせ。


(左から: 向源事務局長 横川さん、青江さん、保井先生、末吉、畑谷さん@浅草おとにて)

向源x慶應SDMコラボが決定したのち、企画デザイン運営協力として、畑谷さん/坂田さん(ビオトープ)、本條さん(ソニーCSL)らにも、慶応SDM共同研究の活動に参加合流してもらうことになりました。


■ 2016年3月 浅草・緑泉寺で、お寺でおカネWS開催

第2回目のエミー&ゼニーWS@浅草・緑泉寺は、5/5 向源2016@増上寺での開催に向けて、トライアルの位置づけでもありました。その様子は、こちら。場所が、お寺で、しかも本堂で開催するWSは、前回の慶應SDMでの回とは全く異なる展開となりました。関係者一同レビューし、5月5日、増上寺での開催決定へ!


■ 徒然なるままに

保井先生は、地域経済、地域イノベーションを語る上で、FinTechと人工知能・ロボット化の流れをよく引き合いに出されます。「FinTechは、AIとロボット技術を駆使する金融の個人化の流れです。この流れが進んでいくと、たとえば地域金融の業界では、与信審査や預金受け入れなど伝統的な金融の仕事が、自宅のパーソナルAIやロボットがとって代わっていく一方で、逆に、人と人とのつながり、人の語るストーリーに共感し、癒しと救いの担い手といった仕事が、とくに地域金融などにとって、人の重要な役割となっていくでしょう。」とのこと。
(参照: 保井俊之(2016), 「2045年の信用組合: 時代のフロントランナーになる」, 全国信用組合中央協会『しんくみ』, 2016年2月号, pp. 4-11)

行き過ぎた「ゼニー」経済圏は、先進国での資本合理主義の行き詰まりに垣間見られます。一極集中、資本を持つものと持たざるもの。1つの尺度での見えざる階級制度となっています。大きなショッピングモールの隣はシャッター商店街となっているようなイメージです。一方で、行き過ぎた「エミー」経済圏での行動原理も、あやうい印象を受けます。よかれと思っての利他的行動が、自身の驕りとなっていたり、他の共同体では受け入れられなかったり。例えば、地域コミュニティによっては、共同体の平等が意識されすぎて、ゼニーもうけをよしとしない風土のイメージです。

どちらが良い悪いという世界観ではなく、両者は表裏一体、我々は、いまも所属する共同体(家族、会社、地域、国など)の文脈によって、どちらにも所属しているのです。重要なのは、「ゼニー」過剰な世界では「エミー」的なるものを注入し、「エミー」過剰な場合は、「ゼニー」的なるものをバランスさせること。たとえば、地域コミュニティ社会において、ローカルクラウドファンディングなどで資金を得て、地域の特性を生かした付加価値ビジネスを立ち上げ、地域活性化に成功する例などが出始めました。

クウジット的に言うと、空(くう)と実(じつ)をうまく融合すること。

この「エミー」と「ゼニー」の経済圏の考え方は、人工知能、ロボット化がもたらすFinTech, AssureTech. … XXTechの時代において、人が生きやすくするため、人を活かしやすくするための、重要なコンセプト、指針となると考えています。高度に発達した人工知能、ロボットと共存する社会においては、さまざまな軸での価値交換が行われ、さまざまな軸での人の信用価値というものが重要、必須となってくると予想されるからです。そこにITや金融業界のみならず、さまざまな領域で、ビジネスチャンスが生まれるでしょう。

(つづく)

※ 2016年度ふりかえりはこちら