お題説教×お題法話:笑顔の観点からの評価

2018年11月24日に日本キリスト教団深沢教会の「いのり☆フェスティバル」で行われた「お題説教×お題法話 ギョーカイ用語禁止編」に笑顔計測ビューワーを持ち込んで登壇者の方々のお話を笑顔の観点から分析してみました。

クウジットではイベントなどの評価方法を、堅いものから柔らかいものまで研究しています。
堅いものとしては、このお題説教×お題法話で仏教用語判定をされている青江さんの「暗闇ごはん」やワークショップやファシリテーションの評価に、幸福度測定のスタンダードであるSWLS(人生満足尺度)や幸せの4因子のアンケートによる主観評価を用いています。(幸福度アンケートによる効果測定

柔らかいものとしては、新虎小屋の「虎笑門」というお笑いライブの芸人さんの評価にカメラから測定した観客の笑顔を用いています。
お笑いの場合は測定した観客の笑顔の最高値や平均値が重要で、虎笑門ではこれらから何とギャラが決まってしまいます。
しかし、説教や法話では参加者を単純に笑わせれば良いわけではありません。
今回から笑顔計測ビューワーの新しい機能として「笑顔共起係数」と「笑顔相関係数」を導入しました。

【笑顔相関係数】
笑顔相関係数は下のようなグラフから計算されます。

このグラフの横軸は話者の笑顔度、縦軸は観客の笑顔度になっています。
笑顔度は0から100の数値で表され、通常は50以上でいわゆる笑顔と判定します。
緑の点は一定の時間ごとの話者の平均笑顔度と観客の平均笑顔度のプロットです。
これらの緑の点による話者の笑顔度と観客の笑顔度の関係の強さが相関係数「笑顔相関係数」です。
相関係数は‐1から1の範囲で、緑の点の集まりが細長くなっているほど相関係数の絶対値が大きくなります。
オレンジの線は緑の点の集まりを近似した直線です。
すべてのグラフのオレンジの線が右肩上がり、つまり相関係数が正の値になっています。
これは話者が笑顔のときに観客も笑顔になり、話者が笑顔でないときに観客も笑顔にならないこと、つまり話者と観客の間にラポールのような「つながり」が生まれていることを表しています。

【笑顔共起係数】
笑顔共起係数も笑顔相関係数と同様に話者の笑顔度と観客の笑顔度の関係です。
ただし、笑顔共起係数は笑顔度が50以上の「笑顔」のみを使って計算します。
この笑顔共起係数の計算にはDice係数を使っています。
Diceとはサイコロのことで、「話者のサイコロ」と「観客のサイコロ」を同時に振ったときに、話者もしくは観客のサイコロの目が「笑顔」になった機会のうち、話者と観客のサイコロが共に「笑顔」になった確率を表しています。
下図に示すように、話者が笑顔になった左の円と観客が笑顔になった右の円の和集合のうち、両者の笑顔が共に起きた(共起)中央の重なりの部分(積集合)の割合が笑顔共起係数です。
つまり、笑顔というポジティブな感情による共感性の高さを表しています。

【お題説教×お題法話の結果】
笑顔共起係数も笑顔相関係数も、あくまでも研究段階の評価指標ではあるものの、お題説教×お題法話の登壇者の牧師さまの説教とお坊さまの法話をこれらの観点から評価してみます。

お坊さまの西原さん、1回目はポジティブ共感を表す笑顔共起係数は話者の中で最も高く、ラポールを表す笑顔相関係数も2番目に高かったです。
しかし、受け狙いを重視したと思われる2回目は笑顔共起係数が激減しました。
これは観客が付いていけなかったのか、もしくは笑顔相関係数の減少は小さかったので、観客は笑っていたものの西原さんが笑っておらず笑顔共起にならなかった可能性があります。
なお、1回目のグラフのオレンジの線の傾きは比較的大きく、観客が西原さんの笑顔度に近い笑顔を返していたことがわかります。

お坊さまの二條さん、お題法話が初めての体験の1回目は、ポジティブ共感を表す笑顔共起係数とラポールを表す笑顔相関係数とも高くはなかったです。
しかし、2回目は大きく改善して笑顔共起係数も笑顔相関係数もトップでした。
個人的にも、話の最後のまとめ方は納得度の高いものでした。

牧師さまの齋藤さん、1回目はポジティブ共感を表す笑顔共起係数とラポールを表す笑顔相関係数とも高くはなかったです。
しかし、2回目はラポールを表す笑顔相関係数が大幅に改善しました。
落ち着いた話しぶりは、ポジティブ共感を表す笑顔共起係数の点では不利だったかもしれません。

牧師さまの陣内さん、ミュージシャンだけあって、お題ソングを歌ってくださいました。
この影響かもしれませんが、ポジティブ共感を表す笑顔共起係数は話者の中の最高値に近く、ラポールを表す笑顔相関係数はダントツでした。
なお、オレンジの線の傾きも最も大きく、観客が陣内さんの笑顔に最も大きく笑顔で反応していたことがわかります。

さて、実際にお話を聞かれた方々は、印象と比較していかがだったでしょうか?
笑顔共起係数や笑顔相関係数による評価は、このようなイベントだけでなく、カウンセリングなど対人業務一般の評価にも有効だと思います。
今後ともイベントなどで活用することにより、より妥当な評価ができるように改善していきたいと考えています。

※ 笑顔計測ビューアーは、クウジット株式会社が提供するKART顔画像認識ソリューション、およびソニー株式会社が開発した顔画像認識技術を利用しています。

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1983年キヤノン株式会社入社。エキスパートシステムなど人工知能の研究開発。1990年株式会社ソニー木原研究所入社。CG・VR・AR・感情認識の研究開発、およびメディアアートへの応用。2000年ソニー株式会社転籍。Feelwareプロジェクトなどで、感情認識やウェアラブル・バイオセンシングの研究開発。2010年クウジット株式会社入社。「つながり」に関するリサーチからセールスまでがミッション。人と人のつながりによる共感や幸福の評価、データとデータのつながりを解明するデータ解析などが仕事です。幸福学とデータ解析を結び付けた健康経営の実践支援サービスにも関わっています。